明るい生活の暗い日記

スピードが足りない

映画『アンテナ』の思い出①

春風の中で足を進めていたら、大学生の頃に出演した自主映画がふと頭を過ぎった。パッケージ化も配信もされていないので、手元にデータがなければ観ることも出来ない作品だが、トレイラーはYouTubeに残っているので、こちらは観てもらうことが出来る。

映画『アンテナ』は、大学の先輩である監督が学部生の頃(2012年頃?)に、SUPERCARの『ANTENNA』を筆頭としたKoji Nakamura氏の楽曲群に着想を得て映画サークルで制作を開始したもので、2014年頃にはパイロット版が完成していた。先輩は、大学卒業後も映像制作会社の仕事や東京藝大院の研究の傍らに制作を続けていて、「アンテナはウチのサークルのサグラダファミリアだね」等と周囲からは言われていた。他の先輩らから、本作がいかに面白いかを熱っぽく語られることがしばしばあり、こういったノリが、何となく大学らしいなと思ったことを覚えている。

「xxにアンテナに出てもらいたいんだけど、頼める?」

B2の学祭の打ち上げの後、早朝のファミリーマート今出川針屋町店の喫煙所で監督にそう言われた際のことを思い出すと、嘘みたいに透明な空気がそこに漂っていたような、そんな感覚に陥る。実際は煙草の煙に塗れていたのだけれど、夢と本当の間のような映像が頭のスクリーンで上映される。当時のわたしは監督が公開したティザートレイラー(先のものとは別)で、アンテナの世界にとてつもない魅力を感じていた。わたしは視覚情報を整理する力に長けていないので、うまく言葉にすることは難しいのだが、大学生が撮る映像とは一線を画したラッシュの奔流に、すっかり魅了されていたのだ。監督曰く、「見た目がいいから」「演技もできないわけではなさそう」というのがわたしへ依頼した理由だった。憧れの作品に携われるとのことで、二つ返事で快諾した。この時点で、重要な役で起用したいという旨のことは伝えられていたが、まさか主演に据えられるとは思ってもみなかった。

続きもののような題を設定したが、果たしてそれを書くことはできるだろうか。はっきり言って、当時のことは最早曖昧にしか思い出せないのだ。酷く落ち込んだ状態で撮影に臨んでいたことだけ、忘れられないでいる。それでも、この作品に関わったことがわたしにとって大きなターニングポイントであったことに相違はなく、少しでも覚えている内に綴らなければならないというような使命感に駆られ、指を走らせている。万に一つ、当時のわたしを知る人がこの記事を読んでいたら、「あの時のお前は相当キツかったぞ」とかでもいいので、あの頃のことを教えてもらえると嬉しい。ここに書くべきではないことや、書きたくないことの兼ね合いもあるが、そういったものに触れることで賦活されるものがあるはずなので。

ひとまず、監督から記事の公開許可を得ることができたので、今回はここまで。

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